もし無人島にIDEかUNIXツールのどちらかしか持って行けないとしたら、私は迷うことなくUNIXツールを選びます。なぜそうなのか、ここではその理由を説明することにしましょう。

まず、IDEはどれも、特定の言語をターゲットとしています。一方UNIXツールなら、テキスト形式になっているものは何でも扱えます。今日の開発環境には毎年のように新しい言語や表記法が追加されるので、UNIXツールの使い方を学ぶのに時間を投資してもすぐに回収できるでしょう。UNIXツールが使えれば、新しいIDEを導入することなく新しい言語や表記法に対応できるからです。

また、IDEの場合は、そのIDEを開発した人の考えたコマンド以外は使えませんが、UNIXツールなら、自分の発想次第で何でもできます。UNIXツールを、レゴブロック(今の子供たちにはバイオニクルの方が有名かもしれません)のようなもの、と考えることもできます。シンプルな部品の組み合わせによってどんなコマンドでも自分で作り出せる万能のツールです。たとえば、Ward Cunninghamのシグネチャ調査をテキストベースで実装すると次のようになります。これにより、個々のファイル中のセミコロンや、中括弧、引用符などの並び方を見て、そのファイルの内容について知ることができます。

for i in *.java; do
    echo -n "$i: "
    sed 's/[^{};]//g' $i | tr -d '\n'
    echo
done

IDEの場合、特定の作業をするための方法はあらかじめ決まっていて、他の方法を使うことはできません。たとえば、デバッグビルドの設定にステップを新たに追加する方法は、あらかじめ決まっています。それに対しUNIXツールの場合は、自分の工夫次第で同じ作業をより効率的に行うことが可能です。たとえばUNIXツールで今の例と同じ作業をする場合には、私はsedを利用して、ビルドをマルチプロセッサアーキテクチャでのクロスコンパイルに対応させています。

元々UNIXツールは、マルチユーザのコンピュータのRAMが128KBしかない時代に開発されたものです。少ないRAMを効率的に利用するために工夫が凝らされているので、それを現在のような大容量RAMのコンピュータで使えば、素晴らしく効率的な処理が可能でしょう。ほとんどのUNIXツールは、フィルタのように1度に1行だけを処理します。これは、UNIXツールが扱えるデータの量に、事実上「上限がない」ことを意味します。たとえば、データ量500MBほどある英語版Wikipediaのダンプの中を解析して、編集が何回なされたかを調べたい時は、以下のコマンドを実行します。

grep '<revision>' | wc -l

これであっという間に答えがでます。何度も同じコマンドの組み合わせを使うようならば、それをシェルスクリプトにまとめることも簡単にできます。シェルスクリプトなら、パイプを使ってコマンドの処理結果をループや条件文に渡すこともでき、非常に便利です。さらに素敵なことに、UNIXコマンドはパイプライン処理として動作するので、現在のマルチコアCPUの場合は、複数のコアに負荷が自然に分散されます。

「スモール・イズ・ビューティフル」の発想で設計され、オープンソースで書かれたUNIXツールは、今やいたるところで利用されています。たとえばセットトップボックスやDSLルータといったリソースの限られたプラットフォームでも使われています。その種のデバイスでパワフルなGUIが提供されることはまずなく、多くの場合、BusyBoxアプリケーション十が使われています。BusyBoxは、UNIXツールの中でも特に利用頻度の高いもので構成されたアプリケーションです。Windowsで開発をしている場合も、Cygwin環境を導入すれば、UNIXツールと聞いて思いつくようなものが利用できます。Cygwin環境では、UNIXツールが実行ファイルとソースコードの両方の形態で提供されています。

既存のツールがどれも自分の希望に合わないという場合も、UNIXツールなら簡単に拡張ができます。いくつか簡単なルールを守ってプログラムを書けばいいのです(言語はどれでもかまいません)。そのルールとは、シングルタスクのプログラムにすること、標準入力からテキスト行としてデータを読み込むこと、実行結果は標準出力に書き込み、その際 ヘッダなどの余計な飾りはっけないこと、です。ツールの動作に影響するパラメータはすべてコマンドラインに指定するようにしましょう。これらのルールを守れば、「この世界とそこにあるものはすべて君のもの」、必要十分な機能を持ち、応用範囲の広いツールができるでしょう。